Grameen Foundation AppLab
Grameen Foundation のコミュニティ ナレッジ ワーカー(CKW)イニシアチブの目的は、ウガンダにおいて信頼のおける情報仲介者(= CKW)の全国的なネットワークを構築することです。情報仲介者は自身が農民であることが多く、草の根レベルでは、モバイル技術を利用して農業に関する情報を小規模農家と交換し合っています。ウガンダの小規模農家の識字率は低く、生活改善の判断の際に役立つ重要な情報を得ることができません。また、送電線による給電が受けられない家庭も多く存在します。Grameen Foundation は、ウガンダで CKW の全国規模ネットワークを構築することによって農業の世界に知識共有の革命を起こし、生産量を向上させ、損失を減らし、国内の貧しい小規模農家の所得を増やすことを目指しています。
活用方法
アフリカにおける携帯電話の普及に伴い、Grameen Foundation は、ウガンダの貧しい地方住民との間で情報やサービスをやり取りする手段として携帯電話を利用できないかと考えていました。携帯電話の普及や同財団の取り組みがなければ、地方の人々がそうした情報を得ることは決してできなかったでしょう。CKW の取り組みは、Google との提携事業として Grameen Foundation の AppLab 施設の中で始まりました。このイニシアティブでは Google と Grameen Foundation が 2 年間のプロジェクトに取り組み、貧しい人々を対象とした関連情報サービスを共同で開発しました。この提携事業は、2009 年に Google SMS、Google 検索、Google Trader という 3 つの新しいサービスの提供開始という形で実を結びました。この功績により、Google、MTN、Grameen Foundation AppLab は 2010 年度の GSMA Best Use of Mobile for Social & Economic Development Award(社会と経済の発展に貢献したモバイル利用の最高賞)を受賞しました。
このイニシアティブでは、CKW が農家を訪ね、その人たちの情報を各自の Android 搭載電話に登録していきます。CKW の携帯電話には、Salesforce にリンクされたデータ収集アプリケーションがインストールされています。CKW は、「11 歳未満の子供は何人いますか?」「子供たちは自分の靴や衣服を持っていますか?」「調理用の熱源として何を使っていますか?」といった質問を通じて、簡単な人口統計情報を記録していきます。これらのデータをもとに、Grameen Foundation は農家の人たちの貧困水準を見極め、介入によって彼らの生活が徐々に向上しているかどうかを追跡できます。
こうした農家のほとんどは、ウガンダの携帯電話網の範囲外に住んでいます。しかし CKW の携帯電話は、太陽光や自転車などさまざまな方法で充電できるうえ、GPS 衛星の信号を利用して、農家に質問をした正確な時間と場所を記録できます。Wi-Fi または携帯電話網を利用できる場所に戻ると、携帯電話に記録したすべてのデータが中央サーバーにアップロードされます。Grameen Foundation は Google マップを利用して、病害の発生状況や、推奨した方法で病害駆除を行った場合に予想される影響など、農家や科学者にとって重要な情報を示す地図を作成できます。たとえば、下図に示すように、質問データをサーバーにアップロードしてからわずか 20 分後に、ひな白痢の拡散状況を示す地図を作成し始めることができました。こうした情報は、ウガンダの地方の農家にとっても、農業政策責任者にとっても、家畜の保護や農家の生活水準の向上に取り組む人たちにとっても、たいへん重要です。
“ひな白痢(生後 2 週間未満のひなに見られる致死率の高い白痢)のヒートマップ
”
Grameen Foundation では、独自のニーズに合わせてオープンソースの Open Data Kit(ODK)アプリケーションをカスタマイズしました。そして Purcforms(ODK 対応のフォームを設計するツール)を使用し、次のような機能を持つ調査フォームを作成しました。
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スキップ ロジックと入力の検証
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高度なコントロール
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自動保存
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調査のリモート管理とリモート送信
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GPS の位置、画像、映像、音声
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オフライン サポートとタイム トラッキング
当団体では ODK Collect のカスタマイズ版を利用し、モバイル デバイスを使って現地のデータを収集しています。得られたデータは、医療サービスのニーズ評価や、各地域で栽培される作物の調査などに利用されます。こうした情報をもとに、地方住民が直面している問題を詳しく把握し、貧しい人たちにより良いサービスを提供するための知識を農業支援事業者に与えることができます。さらに、農家から収集した調査データを提供することで、政府の農業支援機関、農業関係組織、NGO から使用料が得られるため、Grameen Foundation の CKW にとって収入源にもなっています。
成果
Grameen Foundation は Google Maps Platform と ODK を利用して CKW イニシアティブ分析ダッシュボードを開発しました。ユーザーはこのダッシュボードを使って、CKW の作業状況、人口統計情報、情報の反復使用度、登録済み農家の数、提供している情報の質と影響を追跡できます。このシステムでは、CKW 全員の位置を追跡するために GPS 対応携帯電話を利用しています。
ダッシュボードとそのデータはさまざまなメリットを生み出しています。たとえば、家畜の病害に関する質問と回答を追跡することで、病害発生の可能性を関係機関に早期に警告できます。ダッシュボードに表示される地図では、結果を農家別や CKW 別に絞り込むことができるほか、キーワード(特定の作物など)、地区、属性情報、関連組織に基づき、期間を指定してデータベースにクエリを実行することもできます。こうした情報を利用することで、Grameen Foundation やその他の関係機関では、農家の生産性向上と生計維持を目指して、より優れた介入を計画し導入することができます。
市場価格 - 農産物の買い手である仲買人との交渉をより有利に進めるため、農家は市場価格に関する情報を利用しています。ウガンダのブシェニ地区に住むある農家は、「携帯電話に配信された情報では、ブシェニ町でマトケ(調理用のバナナ)が 9,000 シリングで販売されているということでしたが、仲介業者は 3,000 シリングで買い取りたいと申し出てきました。そこでこの情報を伝えると、彼は 6,000 シリングで買ってくれました」と話します。CKW と連携した結果、ウガンダ東部の農家は以前より 17% 高い値段でトウモロコシを販売できるようになりました。
気象情報 - CKW は Google の検索アプリを利用して、向こう 3 日間の天気予報や長期予報を農家に伝えることができます。
Google Trader - Google、ウガンダ MTN、Grameen Foundation が開発したオンライン マーケットプレイスでは、農家の人たちが販売したい農産物の情報を投稿すると、興味を持った業者から連絡先情報とともに返信を受け取ることができます。
起業家としての CKW - コミュニティ ナレッジ ワーカーは、農業研究機関や教育サービスに関する情報を提供し、調査を実施するためのトレーニング、および太陽エネルギーを利用した小規模の自家発電式充電事業を立ち上げるためのトレーニングを受けています。以前まで、CKW の 60% は 1 日あたりの収入が 1.25 米ドルでしたが、こうした事業を立ち上げることで 1 か月で 40 米ドルもの収益を得ている人もいます。
私たちにとって、携帯電話はなくてはならない双方向通信端末です。情報発信と同様、情報収集のための画期的な手段として非常に重視しています。
”デビッド エデルスタイン(Grameen Foundation、ソリューションおよび地域部門部長)